
国が5年かけて進めてきた緊急一時避難施設の指定が、令和7年度末で一区切りを迎えました。取組目標だった人口カバー率100%は、すべての指定権者で達成されています。
では、もう何もしなくてよいのか。
そうではありません。達成したのは「数を揃える」ことであり、次に問われるのは「どこに、どんな機能で」という中身です。自治体・公共施設のご担当者に向けて、5年計画が何を達成したのか、その数字をどう読めばよいのか、そして自分の団体で次に確かめるべきことを整理します。
結論サマリー
令和3年度から令和7年度までの集中取組期間が終わり、取組目標だった各指定権者単位の人口カバー率100%は、全67の指定権者で達成されました。5年間で緊急一時避難施設は10,388箇所、地下施設は3,262箇所増えています。
一方で、この人口カバー率は施設の面積から換算した値であり、実際に住民を収容した実績ではありません。地下施設だけで見た人口カバー率は全国で5.9%にとどまり、防護の機能を備えた特定臨時避難施設は整備予定の段階です。
達成は達成として正しく評価したうえで、次の論点は数から中身へ移ります。

背景 ─ 集中取組期間とは何だったのか
緊急一時避難施設は、国民保護法にもとづいて都道府県知事と指定都市の市長が指定する施設です。爆風などによる直接の被害を軽減するための一時的な避難先として、コンクリート造の堅ろうな建築物や、地下街・地下駅舎といった地下施設が対象になります。制度の位置づけと、自分のまちの指定状況を調べる手順は緊急一時避難施設とはで整理しました。
国はこの指定をより進めるため、とくに地下施設の指定を増やすことをねらって、令和3年度から令和7年度までの5年間を集中取組期間と定めていました。その5年が、令和7年度末で終わったということです。
5年で積み上がったもの
公表された緊急一時避難施設の指定状況(令和8年4月1日時点)では、全国の緊急一時避難施設は62,382箇所、うち地下施設は4,540箇所です。
集中取組期間の5年で見ると、緊急一時避難施設は10,388箇所(20.0%)、地下施設は3,262箇所(255.2%)増えました。地下は5年で3.5倍を超えています。地下街や地下駅舎だけでなく、地下道や地下駐車場が指定に加わったことが効いています。
そして取組目標だった各指定権者単位の人口カバー率100%は、全67の指定権者で達成されました。国が掲げた数値目標が、期間内にすべての団体で達成された。まずはこの結果を正しく評価すべきだと弊社は考えています。
「人口カバー率100%」は何を意味し、何を意味しないのか
そのうえで、数字の意味を一度確かめておく必要があります。
緊急一時避難施設の人口カバー率は、施設の面積を1人あたり0.825平方メートルで割って想定収容人数を出し、それを人口で割った値です(人口は令和2年国勢調査)。つまり面積からの換算値であって、実際にその人数が入れたという実績ではありません。
全国計は162.8%ですが、これは「全国民の1.6倍が入れる」という意味ではありません。指定された施設の床面積を計算上の人数に置き換えるとそうなる、という値です。避難先は住まいや勤務先から歩いて行ける範囲にあって初めて使えますが、地域ごとの偏りも、施設が開く時間帯の問題も、この率には含まれていません。
内訳を見ると差はもっとはっきりします。地下施設だけで見た人口カバー率は全国で5.9%です。爆風や飛散物から身を守るという点でいちばん頼りになるのは地下ですが、その割合は小さいままです。
達成の内側にある幅
もうひとつ、全体の数字では見えないことがあります。全67の指定権者がいずれも100%を超えた一方で、その余裕の幅には3倍を超える開きがあります。最も低い団体で100.9%、最も高い団体で302.4%です。
これは優劣の話ではありません。人口密度、地下空間の量、都市の構造がそれぞれ違うのですから、同じ制度で指定を進めても結果に幅が出るのは当然です。大切なのは、自分の団体がどのあたりにいるのかを、全国平均ではなく実数で把握しておくことです。指定権者ごとの数値は公表資料に一覧で載っています。100%を少し超えたところにいる団体と、3倍の余裕がある団体とでは、次の5年でやるべきことが変わります。
まだゼロのままのもの
今回の公表であらためて見えるのは、防護の機能を備えた施設がまだ実体としてないことです。
避難施設の区分には、武力攻撃災害から生命・身体を守るために必要な機能を備え、一定期間避難できる堅ろうな施設として「特定臨時避難施設」という枠があります。しかし令和8年4月1日時点でこの区分は「整備予定」であり、先島諸島の5市町村で整備が進んでいる段階です。
既存の建物を指定して数を積み上げる段は目標を達成した。一方で、防護そのものを備えた施設を造る段は、限られた地域で始まったばかりだということです。設備として何ができて何ができないのかは核シェルターとは何かで整理しています。
実務でどう動くか
次に問われるのは数ではなく中身です。とはいえ国の技術的な仕様や優先地域の整理は2027年春頃を目途とされており、いますぐ確定するものではありません。仕様が決まる前に動ける範囲は、次の三つです。
一つめは、指定済みの施設が実際に開くかどうかの確認です。夜間や休日に鍵を開ける人がいるか、管理者との取り決めがどこまで具体的かを点検します。指定は書類の上の行為なので、運用が伴っているかは別に確かめる必要があります。
二つめは、地下の棚卸しです。庁舎や公共施設の地下、地下駐車場、地下通路など、すでに持っている地下空間を一覧にしておきます。既にある地下に手を入れる工程の刻み方は既にある地下をシェルターにする段取りで扱いました。
三つめは、費用の見通しを立てておくことです。令和8年度の地方財政措置に国民保護の枠がないことはシェルターに使える国のお金はあるのかで制度ごとに確かめたとおりです。その後の動きは最新動向レポートで毎月追っています。
いずれも予算をほとんど伴わず、基準が示されたあとにそのまま使えます。
出典
内閣官房・消防庁・内閣府「緊急一時避難施設の指定状況(令和8年4月1日時点)」 https://www.kokuminhogo.go.jp/pdf/hinan/02_R8bunseki_kekka.pdf
内閣官房「緊急事態を想定した避難施設(シェルター)の確保に関する基本方針」本体および概要(2026年3月31日閣議決定) https://www.kokuminhogo.go.jp/pdf/hinan/260331shelter_hontai.pdf / https://www.kokuminhogo.go.jp/pdf/hinan/260331shelter_gaiyou.pdf
お問い合わせ
自分の団体がどのあたりにいるのか、地下に何を持っているのか。この二つを一度合わせるだけでも、次の5年で何をすべきかは見えてきます。庁内で検討が始まっていない段階でも構いません。お気軽にご相談ください。

